コラム【スポーツ時々放談】
女子は20歳の大坂なおみが36歳のセリーナ・ウィリアムズを粉砕し、男子はジョコビッチがウィンブルドンに続く優勝で、フェデラー、ナダルの2強時代に終止符を打った――今年最後の4大大会、全米オープンテニスはパワーバランスの崩壊を告げて閉幕した。
酷かったのが女子決勝だ。セリーナが警告違反を繰り返して紛糾、両者が泣きながらの後味の悪い幕切れになった。
セリーナが受けた3つの警告は、コーチング、ラケットアビューズ、暴言。警告2度で1ポイント罰、3度で1ゲーム罰、あれ以上抗議していたら4度目は試合没収だから、慌てて試合を終わらせた。
問題は最初の警告で、主審は家族席からのコーチの指示を目撃、コーチのパトリック・ムラトグルーもそれを認めた。昔はアイコンタクト(目と目を合わせる)さえ警告になったが、
現在はこれくらい日常茶飯事というのが陣営の言い分だ。それは主審の裁量で、違反しているのだから文句を言っても始まらない。セリーナの完敗だった。
面白いのは、2人のコーチだ。ムラトグルーは他にもシャラポワやディミトロフといった選手を育てた実績満載の人物。
かたやサーシャ・バインは大坂なおみが最初のコーチ経験で、それまで長年、セリーナのヒッティングパートナーだった。コーチと比べてヒッティングパートナーは助手、あるいは“丁稚”ほどの立場。セリーナにはそれも気に食わなかっただろう。
■稀有な無邪気さが逆に武器になる
大坂の弱点とされているのは、無邪気、相手を蹴落としてまで勝とうとする闘争本能の欠如だ。サーシャは、この点に関して大会中にこんなエピソードを明かした。
「闘争心について話していた時、なおみにサーシャの現役の時はどうだったのかと聞かれた。なかったと答えながら、ああ、それでいいんだと思った。
それからは、結果にこだわらず、いまのことを考えようというアドバイスをしてきた。我々はもっと彼女の無邪気さ、つくらない側面を学んでいい」
莫大な賞金をめぐって低年齢化が加速した女子テニス界で、大坂の稀有な無邪気さが逆に武器になる。サーシャはコーチになって気付いたという。この無邪気(innocence)も、実はセリーナと深い関わりがある。
大坂の2歳上の姉もツアープレーヤーだが、父親のレオナルド・フランソワは娘たちの素質を認めると、ウィリアムズ姉妹の父親リチャードの方針を真似た。
リチャードは低年齢化が激化した90年代の燃え尽き症候群を批判し、ビーナスとセリーナをジュニア大会から切り離して育ててきた。大坂にもジュニアの経歴はない。サーシャはこうも言った。
「20歳の頃のセリーナを直接は知らないが、なおみと同じようにシャイだったはずだ。なおみもいつかセリーナのように、コートをわが物顔で振る舞うようになるだろう」
セリーナは“昔の自分”に負けたのだ。だから、あんなに逆上したのだ。
(武田薫/スポーツライター)
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180915-00000009-nkgendai-spo
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