<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
7月30日のコンサートで、NMB48山本彩さんが卒業を表明して、大きなニュースになりました。
各スポーツ紙はもちろん、有名なネットメディアの記者も何人も取材に来ていて、山本さんが卒業を告白した瞬間から、ネットの速報ニュースがあふれ出ました。
貴重なニュースが、いち早く世間に伝わるのは、とてもいいことだと思うのですが、一方で、とても違和感を感じることがありました。
記事を出す速さにこだわるあまりか、それらの記事には、事実と違う部分や、明らかに誇張、もしくは不正確な情報が、多かったことです。
たとえば、山本さんは、卒業を決心した理由として、以下のように説明しました。
「私がいないところで1人1人が輝いて、ライブをしたり、頑張っている姿を、1歩引いたところから見ていると、私がもういない方がいいんじゃないかというよりかは、今のタイミングで私が離れる方が、NMB48がもっと成長するいい起爆剤になるんじゃないかと思うようになりました」
ですが、あるニュースサイトは、「私がいないところで…(中略)…、1歩引いたところから見ていると、私がいない方がいいと思うこともありました。今のタイミングでNMB48から離れることが、NMB48がもっと成長するために、いい起爆剤になるんじゃないかと思うようになりました」と報じました。
山本さんは、「突出した存在感の私がいると、グループの後輩たちには邪魔なんじゃないか。だから身を引いた方がいいんじゃないか」という、
遠慮やネガティブな感情を持ったのではなく、「頼りがいのある後輩たちを見て、私が卒業した方が、より活性化すると思えた」というポジティブな感覚を感じられたから、卒業を決心できたと、説明したのです。
くだんのニュースサイトの記事では、意味が全く違ってしまっていました。ここは、山本さんが、わざわざ自分の繊細な感覚の差を説明した、とても重要なポイントです。この誤報は、とても残念なことでした。
そして、卒業を表明したときの情景描写についても、ひどい記事がありました。あるニュースサイトには、山本が表明したとき、「会場は悲鳴と絶叫に包まれた」と書かれていました。
これ、私も現場を取材していたので、断言できますが、全くの誇張、誤植です。むしろ、会場全体は、山本さんが何かを切りだそうとしたときから、
ほとんどのファンが「卒業」を覚悟して、言葉や声をほとんど発せず、彼女の言葉をきちんと聞こうと、信じられないくらいに静まりかえっていました。その瞬間、時が止まり、みんなは固まって聞いていたという感じです。
山本さんの告白がひとしきり終わった後も、悲鳴や絶叫は全くなく、エールを送る「さやかコール」が起こったという展開でした。
そこのニュースサイトの記者が、どのような思いで記事を書いたのかは分かりません。意図的に誇張して、大騒ぎを演出したかったのか。
1秒でも早くネット記事を出すために、サプライズ発表にありがちな、安直な定型の表現で、ささっと記事を仕立て上げたのか。いずれにしても、ここも事実とは全く違う描写でした。
山本さんの卒業発表は、ファンにとっては、サプライズであっても、サプライズでなかったのです。誰しもが、「もうそろそろ」と覚悟をしていたし、「本当に長い間頑張ってくれた」とねぎらいの気持ちを持っていました。
それが、むやみやたらに泣きわめくのではなく、彼女の気持ちを一言一句逃さずに受け止めようという状況になったのです。それは、山本さんとファンの固い信頼関係の証しでした。それだけに、いいかげんな記事には、とてもがっかりしました。
ただし、このような安易な、不正確なネット速報記事は、ニュースサイトの記事だけにとどまっていません。スポーツ紙記者の中にも、前述のような誤解したままの記事、きちんとした情景描写がなされていない記事を、平気で書く人が多いのが、現実です。私も、今回は自戒の念をこめて、ここに書きました。
情報は速さも大切ですが、何よりも正確さ。
ネット上には、フェイクニュースやいいかげんな記事があふれているからこそ、プロの記者たちは、そこを徹底していきたいです。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180812-00294799-nksports-ent
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