安倍晋三首相が来年10月の消費税率10%への引き上げを表明し、準備の本格化を指示した。根強い増税先送りの臆測を打ち消し、
遅れが指摘される民間事業者の準備を促す狙いがある。ただ、国民に負担を強いるだけに、来年の統一地方選や参院選が近づけば、先送り論が再燃する可能性は否定できない。
◇8割準備せず
「消費税率は2019年10月1日に10%に引き上げる予定だ」。首相は15日の臨時閣議でこう言明した。14年4月の8%引き上げ時は半年前の表明だったが、今回は1年前。早めた最大の理由は、軽減税率導入に備えた小売店のレジ改修などが間に合うのかとの不安が強まっているためだ。10%への引き上げはもともと15年10月に予定されていた。しかし、首相は「世界経済のリスク」などを理由に、17年4月へ、19年10月へと2度先送りした。首相は早くから「消費税は予定通り引き上げたい」と繰り返してきたが、過去の経緯から、再々延期があるのではないかとの疑念が民間事業者の間にまん延している。
日本商工会議所が先月28日に発表した調査によると、軽減税率導入に向けた準備を始めていない中小企業は約8割に上る。そこで首相は臨時閣議という重い場での表明によって増税不可避のメッセージを出すことにした。政府高官は「民間の動きが鈍い。準備しろということだ」と語った。
◇苦い記憶
首相が方針明示を急いだもう一つの理由は、景気を腰折れさせないための手だてに万全を期すことだ。脳裏をよぎるのは8%への引き上げ時の苦い記憶。増税が家計にのしかかり、個人消費の低迷を招いた。首相は臨時閣議で「前回の経験を生かし、あらゆる施策を総動員し、経済に影響を与えないよう全力で対応する」と強調。(1)幼児教育の無償化(2)増税2%分のポイント還元(3)自動車・住宅購入時の税制・予算措置-など具体策を並べ、「影響を確実に平準化できる予算を編成する」と力説した。
政府は今後、制度設計を進める。例えばポイント還元はキャッシュレス決済が対象で、クレジットカードやスマートフォンを持たない人は恩恵にあずかれない可能性が高い。こうした人をどう救済するかなど効果的な制度づくりが課題となりそうだ。
◇亥年選挙
首相には、来夏の参院選への影響を最小限に抑えたいとの思惑もあった。「増税の決断は参院選から遠ければ遠いほどいい」(若手参院議員)との事情があるからだ。ただ、来年は夏の参院選に先立って春に統一地方選がある12年に1回の亥(い)年。過去の「亥年選挙」の参院選で自民党は、組織が疲弊し、苦しんだケースが多かった。現段階では党内で「増税はやむを得ない」(閣僚経験者)との声が強いが、選挙情勢が厳しくなれば増税先送り論が噴き出す展開も否定できない。
首相は昨年の衆院選で消費税の増税分を財源とする全世代型社会保障を公約しており、増税先送りは公約不履行につながるため容易ではない。しかし、景気の腰折れを招けば、残り任期の最優先課題の一つと位置付けるデフレ脱却が遠のきかねない。
首相は増税を表明したが、政府高官は「まだ最終決断ではない」と指摘。首相周辺も「基本は増税だが、よほどのことがあれば別だ」と予防線を張った。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181020-00000025-jij-pol
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