寂れた駄菓子屋、スーパーの屋上、温泉街の遊戯施設、遊園地の特設コーナー──。1980年代以降に起きたゲームセンター大流行が終わり、町の各所に残ったゲーム筐体は、ゲームセンターの閉鎖と共に徐々に消えつつある。
そんな中、甲子園でも話題となった秋田の駅前にある商業ビルにぽつんと取り残されたように配置されたゲーム筐体が、大きな話題を呼んだ。
Twitterユーザーの洋菓子氏による8月17日のツイートに掲載された画像を見ると、その妙な構図に思わず「?」が浮かぶ。リフォームを終えたばかりのような小奇麗な空間に、突如置かれた6つのゲーム筐体。
なぜか手前には椅子がふたつしかなく、ラインナップも最新機種ではなく無印『ストリートファイターII』、初代『ぷよぷよ』、『デススマイルズ』といずれもレトロだ。ゲームセンターにはお決まりの自動販売機も、灰皿も、メダル交換器も、店員の姿すらも見えない。
洋菓子氏によれば、なぜか無印の『ストリートファイターII』が置かれているこの空間は、賑わいもなく誰かが通るわけでもないという。
哀愁ただようこの空間はなぜ生まれたのか? この秋田駅前にある通称「緑屋ビル」の担当者である渡辺さんにお話を伺ってみた。
取材・文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn──どういった経緯であそこにゲーム筐体を置こうと思われたのですか?
渡辺さん:
弊社は自社ビルでリサイクルのお店をしていまして、さらに去年まで6階にアニメイトさんがテナントで営業していました。でもそのアニメイトさんが移転されて、お客さんの流れが悪くなってしまって、リサイクルのお店を縮小したんですね。それで空いたスペースを利用できないかと考えていたんです。
その時たまたまeスポーツ関連のニュースや、NHKで高田馬場のミカドさんの特集番組を見たんです。最新のゲーム機はなかなか入れられないけど、古い機械なら業者さんの方にあるということで、それを導入してみました。
むかし流行ったレトロなゲームを入れたら集客できるんじゃないかということで、業者さんと相談して「これなら面白いだろう」というのをとりあえず最初に6台入れてみた状況です
──ではいまは試験的にゲーム筐体が置かれているということなんですね。
渡辺さん:
本格的に稼働させて、ゆくゆくは大会とかと絡められないかなと。駅前という立地上、高校生さんとかも覗いてくれたりして、ちょっとでも盛り上がっていけば面白いかなと思っています。──実際に人の入りに変化はありましたか?
渡辺さん:
SNSで話題になってくれたおかげで、ちらほらとは見に来てくれる人もいます。いまなんて殺風景なただ何もない所に6台どーんと置いてあるだけなんですけどね。ほかに何もない。──その絵面が皆さんを刺激したのではないかと思います。
渡辺さん:
そうですね(笑)。反応が良ければ、最終的にはレトロゲームとかコアなゲームファンが集まれるような場所になれば嬉しいですね。──そういう意味では話題になるのは早かったですね。
渡辺さん:
最初のイメージでは最新のゲーム機だったんですけどね(笑)。それを導入するのは流石にハードルも高いですし、なら発想を変えてレトロゲームならと。アニメイトさんが入っていたころのお客様の層が完全に途切れないように、今弊社のお付き合いをしている業者さんとのなかで何ができるかを考えました。
あとは、秋田は冬に雪が降るので、その間もプレイできてじわじわと人気がでそうなものと考えると、わりと競技性のあるやり込むタイプのゲームは親和性が高いものがあるじゃないですか。
いまはレトロゲームが置いてあるだけですけど、反応を見ながら進めていって、最終的にそういったイベントが秋田でも盛り上がると嬉しいなと思いますね。
──ちなみに渡辺さんは置いてあるゲームは全部ご存知なんですか?
渡辺さん:
格闘ゲームはかなりお世話になりましたね。いまはゲームを普段もプレイするということはないですが、置いてあるゲームは全部見たことはありますね。──ゲームの中身は知ってらっしゃるんですね。
渡辺さん:
知ってはいるんですけど、私から見てもやはり古いなとは思います(笑)。スマホゲーム全盛のなかで、学生時代にお世話になったようなゲームを置いてみたら逆に面白いだろうなと思いました。周りのアミューズメント施設が撤退していく流れの中で、ちょっと時代に逆行してみたいなと。どうも業者さんの方もまだ古いゲーム基盤が結構沢山あるらしいんで、ここが盛り上がってくれれば今後も本気で探してくれるのかなと思ってます。
──そもそも立地はかなりいいですよね。もともとかなり人の出入りは激しいビルなんですか?
渡辺さん:
いまはビルに弊社のリサイクルショップしかない状態なもので、そういう小さなことからやろうという感じですね。──今後はどう展開していく予定ですか?
渡辺さん:
本当にまだ置いてみて1週間程度なので、当面は様子をみながら、続けていけそうなら皆さんがくつろげるようなスペースにしていきたいですね。いまはまだ殺風景ですけど、徐々に皆さんの目に止まって、「このゲームを入れて欲しい」とか要望をいただけると嬉しいですね。実際にそのゲームを入れられるかどうかは分からないですけど、来てくれる人の居心地のいい空間を、来てくれる人と作っていくことが理想ですね。
──ありがとうございました。(了)
寂しい空間にぽつんと置かれたようなゲーム筐体……ただ、渡辺さん自身によれば、それは適当に置かれた6台ではなく、「意図して設置された6台のレトロゲーム筐体」だということだった。
取材の際にも丁寧に対応していただいた渡辺さんの誠実な人柄と接してしまうと、否が応でもこの名もなきゲームセンターを応援したくなるところである。ゲームセンターという“場所”は、かつてはコミュニティと密接に繋がりながら存続してきた。しかし昨今はコミュニティの変化や時代背景によって、町中の近所にあったようなゲームセンターは消え、残ったものの多くも苦境に陥っている。
コミュニティと繋がってゲームセンターが活況だったその夢の時代は、おそらく今後も戻って来ない。
だが、その一方で成功しているゲームセンターというのは少ないながらも存在しており、そういった場所はコミュニティの変化を嗅ぎつけて訴求する層を絞っているように思える。
コミュニティが消えるわけではなく、時代が移り変わって変化が起きても彼らを理解できているかどうかが、今後もゲームセンターを成功させる要因となるのだろう。
今はたった「6台の筐体」が置いてあるだけの空間だが、その空間に人が集まり、筐体が増え、今まではなかったコミュニティができていくのを想像するのは楽しい。6台の筐体が伝説になる日だって、ひょっとしたらあるかもしれない。
電ファミニコゲーマー:Nobuhiko Nakanishi
引用元:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180824-00053888-denfami-game
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