女優の永野芽郁(18)がヒロイン・鈴愛を演じるNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(月~土曜前8・00)は折り返しを迎えた。

俳優の豊川悦司(56)が怪演した人気少女漫画家・秋風へのロス現象も冷めやらぬ中、新章「人生・怒涛編」がスタート。ドラマ前半、3カ月かけて描いたのは朝ドラに不可欠な「喪失」だった。

仕事も恋も失った鈴愛のボロボロの姿は、今作を手掛ける脚本家・北川悦吏子氏(56)の代表作「ロングバケーション」のヒロイン・南を彷彿。

「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)などの著書で知られるドラマ評論家の木俣冬氏は、鈴愛の喪失感が視聴者の共感を呼び、高視聴率にも結び付いていると分析。その苦悩を全身で表現している永野の熱演を称えた。

「半分、青い。」が放送3カ月を過ぎてガラリと様変わりした。 第34話(5月10日)から第81話(7月4日)までの「東京・胸騒ぎ編(漫画家編)」が終わり、翌5日から始まった「人生・怒涛編」は前半の3カ月と後半の3カ月が一見きれいに切り分けられたかのようにも感じられ、今から見ても大丈夫そうだ。もちろん最初から見ている人は引き続き、鈴愛の人生行路を楽しめるだろう。

主人公・鈴愛(永野)が大都会・赤坂でカリスマ漫画家・秋風(豊川)に弟子入りし、デビューした夢のような「東京・胸騒ぎ編」とは打って変わって「人生・怒涛編」の鈴愛は1999年秋、何もかも失くしたところからスタート。彼女にだけはノストラダムスの予言(99年7月に世界が滅亡するという都市伝説)が当たってしまったと言っていいかもしれない。「東京・胸騒ぎ編」のクライマックス、律(佐藤健)と完全な別れを経験して、漫画が描けなくなってしまった時の鈴愛の追い詰められた表情は多くの視聴者を震撼とさせた。

鈴愛は、同じ日に生まれた“運命”の幼なじみで実は密かに結婚したいと思っていた律が他の女性(石橋静河)と結婚してしまった上、漫画を描く才能がないことを嫌というほど思い知らされて道を断念。時給750円の100円ショップ「大納言」で働きながら、安アパートで節約の日々を送っている。ただ、どうやら映画の助監督をやっている森山涼次(間宮祥太朗)と新たな心の通い合いがありそうで、ここからが主人公のリスタートである。

ゼロからの再出発。この新章の始まりを見て思ったのは、今作を手掛ける脚本家・北川悦吏子の代表作の1つ「ロングバケーション」(96年、フジテレビ)の冒頭だった。「半分、青い。」の第65話(6月15日)、鈴愛の幼なじみ・ブッチャー役の矢本悠馬と菜生役の奈緒の出演によるパロディー風ドラマ「Long Version(ロングバーション)」が登場し、視聴者を沸かせた大ヒット作は、岐阜出身のヒロイン・南(山口智子)が結婚式当日、相手に逃げられ途方に暮れるところからスタートした。実は南はモデルの仕事もどん詰まり。年齢的にも先が見えず、気持ちが塞いでしまいそうになるところを空元気で誤魔化している。そんな時間を“神様がくれた休日”と捉えるという話で、偶然出会って同居生活を送るようになるピアニスト・瀬名(木村拓哉)と心を通わせながら、やがて幸せを手に入れる。多幸感あふれるラブストーリーで、社会現象を巻き起こした。

始まって3カ月でヒロインが仕事も恋も失くした『半分、青い。』は、まるで連続ドラマ全11話分のさわりの部分を81話×15分(1215分=20時間15分!)かけて描いたかのよう。そう思うと、随分と丁寧な前振りであったことか。

北川悦吏子のドラマには“喪失”がモチーフになっているものが多い。豊川悦司が聴覚を失った画家を演じた「愛していると言ってくれ」(95年、TBS)をはじめとして、「オレンジデイズ」(2004年 TBS)は耳を失聴した音楽家がヒロイン(柴咲コウ)、北川が監督した映画「新しい靴を買わなくちゃ」(12年)も一見パリで優雅に暮らしているように見えた主人公(中山美穂)はあることで深い喪失感に囚われていた。

その喪失からの巻き返しが北川悦吏子のストーリーの真骨頂で「半分、青い。」も今後、ヒロインがどう巻き返していくか楽しみなところ。

放送開始から何かと“朝ドラ革命”と注目されている「半分、青い。」は、言動が荒く何かと型破りな主人公やSNSによる宣伝戦略など、攻めの姿勢が頼もしくもあるが、通奏低音のように流れる「喪失」は朝ドラには欠かせないモチーフでもある。例えば、現在、NHK総合で夕方に再放送中の「カーネーション」(11年後期)もちょうど折り返しのところで終戦となり、戦争未亡人となったヒロイン・糸子(尾野真千子)はもう一度、洋裁の夢に向かって邁進していく。BSプレミアムで再放送されている「マッサン」(14年後期)も後半、戦争が起こり、主人公マッサン(玉山鉄二)と妻エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)は苦悩する。「マッサン」の場合、最大の喪失は長年連れ添ってきたエリーの死である。

前作「わろてんか」(17年後期)では、ヒロイン・てん(葵わかな)は夫・藤吉(松坂桃李)を病で亡くし、2人で作った寄席小屋も戦争で失いながらも常に笑顔で生きていく。前々作「ひよっこ」(17年前期)は戦争での喪失を急速に埋めていく高度成長期を舞台にするも、出稼ぎに出た父・実(沢村一樹)が行方不明になり、その不在が長らく主人公・みねこ(有村架純)の人生に影を落とすことになる。

「あまちゃん」(13年前期)は現代劇であったが、東日本大震災に向き合い、東北の町を愛する少女・アキ(能年玲奈、現のん)の物語を日本全体の喪失と絡めて描き、アキの行動が深い祈りと感動を呼び起こした。

喪失がない現代劇は「まれ」(15年前期)で、戦争を知らない時代、登場人物が亡くなることも、ヒロイン・希(土屋太鳳)が挫折することもなく、すべてを手に入れて生きていた。そのため「世の中を舐めすぎ」と先輩に批判される場面もあって、まるで視聴者の代弁のように聞こえたものだ。

近代を舞台にした「半分、青い。」は「まれ」に似ていると指摘されることもあるが、主人公はもともと左耳の失聴というハンディキャップを持って生きていて、恋も就職もそのせいでうまくいかないのではないかというコンプレックスに悩む場面もある。それでも視点を切り替えて前向きに生きていくところが話の骨子だ。

鈴愛は目下、幼い時から一番大事に思ってきた“魂の片割れ”のような存在だった律が結婚して離れていってしまい、漫画家の仕事にも挫折してアイデンティティーもなくなって、ないない尽くしのどん底である。おまけに、バブルも崩壊、世紀末を過ぎて日本が下り坂になっていくところ。

「戦争」という大きな物語の中で“喪失”を描かずとも、鈴愛の個人的な“喪失”の物語が視聴者の心をつかむことをが『半分、青い。』の視聴率の高さによって実証されていると感じていたら、鈴愛の祖父・仙吉(中村雅俊)の戦争体験も第53話(6月1日)と第80話(7月3日)の2話にわたって語らせ(中村のギター弾き語り付き)、時代が「大きな物語」から「小さな物語」に移り変わっていく歴史も描いてみせたと言えるだろう。

鈴愛役の永野芽郁は、この大きな物語から小さな物語の移行の時代を背負って、襲いかかる喪失に対する恐怖と苦悩を全身で演じているが、それに押しつぶされることなくはじき返す強さが印象的だ。

自分を守ろうと叫ぶ彼女の声は、まるでピアノの高音のように強く響く。オープニングで華麗に披露しているリボンを回す技術を新体操の経験を活かして楽々発揮してみせる恵まれた身体能力と、何があっても失われない透明感とケロッとした表情は、朝ドラヒロインとして頼もしいばかり。

鈴愛が喪失をどうやって埋めていくか、行く末を見守っていきたい。=敬称略=

◆木俣 冬(きまた・ふゆ)レビューサイト「エキレビ!」にNHK連続テレビ小説(朝ドラ)評を執筆。2015年前期の「まれ」からは毎日レビューを連載。著書「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)は画期的な朝ドラ本と好評を博している。

16年5月に亡くなった世界的演出家・蜷川幸雄さんが生前に残した「身体」「物語」についての考察を書籍化した近著「身体的物語論」(徳間書店)を企画・構成。


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みんなのコメント

1 :rum*****:2018/07/08(日)11:20:59
脚本家がしゃしゃり出るのだけはやめた方がいい。自画自賛はせめてドラマが最終回を迎えてから。「神回」問題も脚本家が何も言わなければそれなりに良い回としてそこそこ感動できたかもしれないのに。「神回」と言わなかった回の方が良かったりしたしね。
2 :poteche0141:2018/07/08(日)11:20:11
一昔前のヒロインは田舎から都会に出て来て…とかあったが、どれもマイペースで自分勝手、相手を思いやれず図々しいが憎めないと設定でこんな女隣に居たら嫌われる!タイプだったが、いつからか好感が持てるヒロインに変わって来た。久しぶりに無神経なウザイヒロインに話しが進むにつれイラ付いてく後岐阜弁??だ!ってセリフも!…やっぱヒロインキャラの古さが北川っぽい
3 :bfc*****:2018/07/08(日)11:19:17
リタイアしそうになっているがエンディングは感動する演出をして欲しい
4 :hks*****:2018/07/08(日)11:13:53
なんだ、このちょうちん記事は。NHKから金もらって書いてるのかな。いままでトヨエツの演技でもってただけのドラマだよ。
5 :app*****:2018/07/08(日)11:12:01
大雨の災害が続くからNHKをつけている家庭が増えただけではないですか?
6 :ara*****:2018/07/08(日)11:08:12
過去作品を持ち出し、ロンバケを彷彿とさせるなどと言われる辺り、今作品はあまり評価されてなさそう。
7 :nor*****:2018/07/08(日)11:02:38
この記事は何が目的?なにを必死に持ち上げてるの?見てて少しも面白いと思わない何を言われてもその感想は覆らない
8 :qqg*****:2018/07/08(日)10:58:27
100均ショップ店長、オーナーの三姉妹・・・今後が楽しみ。


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9 :kan*****:2018/07/08(日)10:57:08
何?この展開、、、
10 :yag*****:2018/07/08(日)10:53:15
前半の秋風先生が凄く良かった。後半はどうも男性陣がもう一つダメっぽい感じが強い。涼ちゃんはどうかわからないけど、100均の店長はまさしくそんな感じ。いつも疲れている感じだし。
11 :匿名希望:2018/07/08(日)10:48:20
視聴率喪失すんじゃない?
12 :pok*****:2018/07/08(日)10:44:44
北川さんへの違和感、不快感を視聴者は思っているだろう。僕もそう。彼女は朝ドラっぽい無難なそこそこのものを作ることは出来たはず。でもそうしてない。これからも期待しながら観てみます。
13 :der*****:2018/07/08(日)10:42:34
「喪失」というキーワードで思い出したのは、他にも阪神大震災で最初から父親が亡くなった『わかば』や、主人公の夫が片腕を戦争で失う『ゲゲゲの女房』もそうだが。
14 :p*****:2018/07/08(日)10:41:35
受信料で制作すな。
15 :zzz*****:2018/07/08(日)10:40:57
「?だ!」っていう言い切りの言葉、ユーコも使ってたし岐阜弁ってわけじゃないよね?文章なら良いんだけど実際に言い切り言葉で喋ってるとすごく不自然な感じがする
16 :kaz*****:2018/07/08(日)10:37:10
ワガママな片耳の女にしかおもえん。片耳でなきゃいけない意味は今のところ不明。
17 :**k*:***o:2018/07/08(日)10:36:23
フッ、大ヒットしてるドラマにはいろいろ理屈を付けたがる奴が出てくる。だが正しいのは全て視聴率。
18 :ホジる:2018/07/08(日)10:35:33
突然つまらなくなった。彼らのせいじゃないのになんか斎藤工、間宮がかわいそうな感じ
19 :551*****:2018/07/08(日)10:34:19
鈴愛が叫んでるのをみて数年前にタイムスリップしたかと思った。本音を叫ぶ演出って今もやるんや。ドラマの演出まで昔を取り入れたのね。
20 :********:2018/07/08(日)10:34:05
昔は朝ドラのことを「連続テレビ小説」って言ってなかったですか?この「半分青い。」は、短編小説をくっ付けているだけで、ストーリーに一貫性が感じられない。中村雅俊ブレイク世代よりご年配の方々は楽しめているのかな。
21 :Hitaka:2018/07/08(日)10:33:53
確かに喪失感はありますね。あまりに展開を急ぐばかり視聴者がついていけないくらい物語を端折ってますもんね。物語の主人公が、じゃなくて視聴者が喪失感ありまくりですね。(ー ー;)
22 :ris:2018/07/08(日)10:33:52
まれにも劣らない作品。脚本家が前に出過ぎて興ざめ。あんな話し方する主人公にはドン引きです。
23 :straw hat:2018/07/08(日)10:33:08
一気に様変わりして違うドラマを観てる感覚。漫画家を夢見て東京に出てきた鈴愛が100均で出会った相手を結婚相手に選ぶとは…。北川氏はヒロインを雑に扱ってる気もしないではない。そして、秋風塾で絡んでいた出演者が置き去りだ。消化しないままストーリーが進む内容に何だかな~と思うばかり。
24 :ari*****:2018/07/08(日)10:32:51
えらく持ち上げてますけど、永野さんの熱演だけはわかります。
25 :mas*****:2018/07/08(日)10:30:21
主人公と同じ年です。母数が多いだけの不遇の世代にやっとスポットライトがあたったと喜んで見ていますが、時代背景の再現が雑で出来事やセットに数年のズレがある事が気持ち悪く、残念です。
26 :aki*****:2018/07/08(日)10:28:49
新しい展開は明るい話にして欲しいです。秋風先生がいなくなり、面白さに不安を感じます。
27 :ddc*****:2018/07/08(日)10:28:36
鈴愛の落ち込みっぷりは半端なくって良かった。100円ショップの店長になるって展開だろうか?間宮祥太朗演ずる助監督が居候している監督の役で斎藤工が出てくるから、役者としての才能を見出されて映画に出演、カンヌ国際映画祭で賞を取るとかそういう展開かも。
28 :kai*****:2018/07/08(日)10:27:53
持ち上げすぎでは?。ストーリーがガラリ変わって、結構戸惑ってる人も多いのでは…。
29 :バスタオル:2018/07/08(日)10:26:06
一番喪失してるのは、視聴者の作品に対する期待。
30 :mamachan:2018/07/08(日)10:24:49
運命の歯車がうまくかみ合わなかったり、若いから限界が分からず能力以上の事をやり続けようとして心身が壊れそうなるさまは、そこまでの経験はなくとも、若いころしんどい思いをした人間なら痛みが多少分かります。あれ以上やってたらこうなってたかもみたいな、追体験に近いかもしれない。永野さんはとてもうまく演じてました。喜怒哀楽を自然に演じれる将来性を感じる女優さんです。
31 :mar*****:2018/07/08(日)10:19:31
半分、青い。その名の通り後半半分は青ざめてしまうほどつまらない。内容がどこへ向かっているのかわからず、中身が空っぽ。楽しみだった録画ももうやめました。
32 :kec*****:2018/07/08(日)10:19:18
清って一体なんだったんだろうって思う
33 :jun*****:2018/07/08(日)10:18:16
プロの視点から色々深く読んであげすぎ。空回りしてるって一言言ってあげて。
34 :mar*****:2018/07/08(日)10:17:16
だんだんついていけないわけわからん
35 :匿名希望:2018/07/08(日)10:14:45
半分青いを楽しんで見ている方々の視点をうかがえる記事でした。視聴率が良いのはこういう方が多数いると言うことですね。うーん、、、
36 :kor*****:2018/07/08(日)10:13:30
1999年は就職氷河期のドン底だったので、世の中全体がドン底でした。既に晩婚化が進んでたので28歳独身は珍しくもなく、普通に周りにいっぱいいました。
37 :all*****:2018/07/08(日)10:11:59
ここにきてドラマ自体が面白さを”喪失”してるような。
38 :nmu:2018/07/08(日)10:11:54
喪失っていっても自ら招いた結果って感じだけどね
39 :Pin*****:2018/07/08(日)10:10:39
色んなドラマと結びつけ過ぎてて分かりづらい。
40 :Pi:2018/07/08(日)10:09:26
何か太鼓持ち記事っぽい(^^;見ずにニュースだけで粗筋追ってるけど突っ込みどころ満載。喪失感は誰しも何かの形で持ってるものだと思う。ただ、ヒロインは自分で無くして行ったモノも多いんじゃないかなぁ。無くさずに済んだものもあったと思う。
41 :Itm*********:2018/07/08(日)10:07:47
新しい展開になって、正直戸惑いを隠せない視聴者が多いかと。今は、秋風羽織先生ロスです。ボクテとユーコが、登場してくれるのが救い。
42 :孤空蔵:2018/07/08(日)10:06:20
他の朝ドラで描かれた「喪失」と比べたら、平成の時代の失恋職なしっていう喪失なんて薄っぺらい
43 :tom*****:2018/07/08(日)10:05:37
ちょっと何言ってるか分かんないんですけど。
44 :びびんSSS・ターボ:2018/07/08(日)10:03:01
鈴愛は、都合の悪いときだけ耳が不自由になるような気がするうちのおじいちゃんと一緒だ
45 :tab*****:2018/07/08(日)10:01:42
個人的には純と愛ルートに入ってしまわないか本当に心配だけどね。


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