今なお国民的マンガ・アニメであり続ける『ドラゴンボール』(作・鳥山明氏)だが、ここにきて再び注目を浴びているのがヤムチャだ。

『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』なる公式スピンオフ漫画が発表されたり、栽培マンの自爆で死んだ場面がTシャツとして発売されたりと引く手数多。当初はイケメンキャラながら、いつしか気持ち良い位の咬ませ犬となったヤムチャが、なぜ注目を浴びているのだろうか?

■『ドラゴンボール』の第一期生 “強者のインフレ”により、悟空のライバルからかませ犬に

ヤムチャはドラゴンボール第1巻から登場する由緒ある“初期メンバー・第一期生”であり、“荒野の盗賊”という設定で、子分はプーアル。

得意技は狼牙風風拳とし、昔のマンガによく見られるロン毛+ワイルドなイケメンなのだが、女子の前だとあがってしまう(緊張してしまう)という見た目とは真逆の欠点がある。

ブルマの入浴シーンを見れば「が………がぎ……ぐ…げごご…!!!」と動転、最初に7つドラゴンボールが揃った際は「オレは女の前にいってもあがらないようにしてもらうぞーっ!!!」と絶叫するなど、自らイケメンの道から外れていく。

結局はブルマと意気投合し、孫悟空が武天老師(亀仙人)のもとで修業する道を選んだのに対し、ヤムチャはブルマとともに西の都に向かい、当初の「ヤムチャが悟空のライバルになるのでは?」(すぐに悟空に負けていたが…)と期待されるポジションを早々と捨てることに。

約1年後、ヤムチャは第21回天下一武道会に自慢のロン毛を切った爽やかな都会風の短髪姿で登場するも、1回戦でジャッキー・チュン(亀仙人)に風で飛ばされて場外負け。どうもこのあたりから1回戦負けキャラが定着するようだ。

その3年後にも第22回天下一武道会に出場し、天津飯の前で「きえろ、ぶっとばされんうちにな」と息巻くも、あっさり足を折られ白目をむいて惨敗。

第23回天下一武道会でもシェン相手に一回戦負け。さらに、サイヤ人戦ではついに初めての“戦死”。それも「栽培マン」というベジータの取り巻き(仮面ライダーのショッカー的な小さい爬虫類型エイリアン)の群れの自爆に巻き込まれるという最高に切ない負けを喫した。

その後は「ちょっと強そうな敵(決してボスキャラではない)の実力を測るための負けキャラ」というポジションに追いやられ、あげくの果てに物語の終盤の魔人ブウ編では、戦う描写さえ許されず、「チョコレートにされて」食べられてしまうのだった…。

■「ヤムチャしやがって」という造語も誕生! ネットではパロディネタの宝庫に

と言うと、ただのダメキャラのようにも思えるが、見方を変えればヤムチャはバトル系マンガにありがちな“強者のインフレ”に巻き込まれ、自分の力を過信して強い敵に挑んでは負けを繰り返すという、いわば“噛ませ犬”的なポジションにシフトさせられたと言えなくもない。

実際、ヤムチャの戦績はトータルではかなり勝ち越しており、ドラゴンボールの世界では弱く見えてしまうかもしれないが、人間としては強いのだ。いかんせん、勝った相手はほとんど無名のモブキャラだからアピールに乏しく、有名キャラに負けることで、やられキャラのイメージのほうが強くなってしまったという損な役回りなのである。

しかし、そんなヤムチャのビッグマウスの果ての負けっぷりも、「ヤムチャしやがって」との名言とともに先の栽培マンの自爆に巻き込まれて倒れ込む姿を象徴として、まさかのレジェンド化。

そしてさらにフィギュア化され(予約殺到で即完売したらしい)、2018年の「UNIQLO×ジャンプ」コラボでもTシャツ化されるという、真っ白になって燃え尽きた『あしたのジョー』の矢吹丈に勝るとも劣らない“哀愁”を漂わせるのだ。

今では、その姿はネットでもコラ画像やパロディイラストとして頻繁に使用されおり、バトル系マンガの噛ませ犬的なキャラは“ヤムチャ系”とも評される、ヤムチャの負けキャラはすっかり“型”としても定着することになる。

ヤムチャの性格としても、天津飯に謝罪されると素直に許す人間の大きさを見せ、天津飯が優勝すると真っ先に拍手をし、最後は天津飯と親友に。

間接的に殺されたベジータとも、後には一緒にカプセルコーポレーションで暮らすし(後にブルマを奪われる)、天津飯に「(ベジータと)一緒に住んでいるヤムチャの気が知れん」と言われながらも、復活したフリーザが地球に再来襲した際にはベジータとともに駆けつける。そして戦いの主役が悟天やトランクスら第二世代に移ると、たびたび不在になる(敵に殺される)悟空やベジータら大人と子どもたちの間を取りもったりするのである。考えてみれば、ヤムチャはものすごく頼もしくもいいヤツではないか。

■その軌跡はまるで“俺”の人生? 親近感と共感を呼びまくる“人間らしさ”

そんなヤムチャの“中の人”(声優)は、あの『機動戦士ガンダム』のアムロや『巨人の星』の星飛雄馬役で知られる古谷徹。古谷は、「最初に出てきたときはすごくカッコよくていい役だなって思っていたのが、いつの間にか、 自分より強いキャラが出てきてだんだん端っこに追いやられていくという、寂しさを味わっていって…。

でも、ヤムチャを大好きな方もいらっしゃって、そういった方々の声をいろいろ聞いて、改めて見直したら、『ヤムチャって良い役だなあ』と思い直したんです。すごく親近感も沸くし、笑いも取れるし。イケメンで、おしゃれでもあるし、盟友のプーアルもいる。

魅力的なポイントが多いんですよね。今では、ほんとに大好きなキャラクターです」と話している。

実際、ナメック星編の時期に鳥山氏のマンガ全般を対象にしたキャラクター人気投票でヤムチャは第6位、魔人ブウ編の時期では第8位にランクイン。決して強いキャラではないのに、ヤムチャは読者には大変人気のあるキャラクターだと言えるだろう。

そもそも、いきなり金髪になる宇宙人(スーパーサイヤ人)や神様、人造人間、魔人などが続々と登場するという、キャラの“ハイパーインフレ”状態だったドラゴンボール界では、ヤムチャはいちばん人間味に溢れ、感情移入もできる“リアル”な地球人キャラとも言える。

かつて敵だった天津飯やベジータとともに戦う姿は、幼いころにケンカした相手と仲よくなったり、自分が強い相手と戦えないぶん熱心に仲間を応援するなど、誰もが持っている経験とも重なる。女子の前ではてんでダメだったクセに、一度“開花”すると浮気を繰り返しブルマにフラれる姿なども、大学デビューして遊び惚けたあげく、実際には大してモテていない自分に気づく姿にも似ていないだろうか。

さらに無謀な特攻ぶりを発揮するも見事に玉砕…なんてことは社会に出ればいくらでもあることなのである。

小さいころは、「将来は孫悟空になるんだ!」と思っていたとしても、中高生になって「やっぱ悟空は無理だよね。ていうか、ベジータのほうがカッコよくない?」と主人公になれない自分に気づき、ライバル役に存在意義を見出したりする。

さらに大人になると、「俺って、もしかしてヤムチャでは……?」と思うかもしれない。

マンガでもアニメでも、カッコよくて最強な主人公ばかりが登場しては物語が成り立たない。周りに弱さや情けなさを見せる脇役がいてこそ、主人公のカッコよさが引き立つのだ。実際の社会においても、主人公にはなれないあるいはならないと自覚し、3番手4番手でもなく10番手20番手ぐらいの立ち位置で、自分なりにやるときはやる。

そういう人生もありではないか。そして自分の役割りに徹することが、『ドラゴンボール』のような壮大な物語を作っていくことになるのだろう。そう、ヤムチャのように。


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みんなのコメント

 

名無しさん
ベジータにブルマを寝取られる可愛そうなやつなのかと思っていたけど、ヤムチャが浮気したんかいな…そら自業自得やわ
名無しさん
ヤムチャ掘り下げ過ぎ笑
でも愛があっていいですよね!
今の気持ち
ヤムチャがクリリンより弱くなったのはひとえに女癖が悪すぎたせいです
真面目に修行してれば今でもクリリンと互角に渡り合えたのに
ブルマと付き合うようになった時点で武道家としての命運は尽きていたのかもw
名無しさん
オレはイケメンでもないヤムチャ(笑)
つまり凡人(笑)
名無しさん
コミックが終わった頃のヤムチャの強さはどれくらいなのだろうか?ナッパに勝てるくらいは強くなっている?
名無しさん
この漫画今TVでやってるやつかな?
全く見た事ないけど、記事読んでると面白そう。
名無しさん
確かにヤムチャが死ぬのは実は結構、後の方なんだよね。地球人最強と言われているクリリンがまだピッコロ大魔王編の初っぱなで手下のタンバリンに真っ先に殺されてるし(ましてや後々に同じ声優さんの中尾隆聖さん演じるフリーザにも殺される訳だが)その後ピッコロとの戦いの中で亀仙人や餃子が死んで(餃子もクリリンと同様二回死んでいる)悟空もサイヤ人襲来編の第一弾と言えるラディッツとの戦いで既に犠牲となるし(ま、ラディッツにとどめを刺したのはピッコロだが)。で、ヤムチャが死んだ後に餃子や天津飯やピッコロがサイヤ人との戦いの中で(正確に言えば…ナッパとの戦いでだが)死んでいく訳だが。あ、でも…ドラゴンボールのキャラクターの中で野球が一番得意で一番野球のルールを知っているのは間違いなくヤムチャですよね。
fuc
ヤムチャ先輩…
凡人がいるから、めちゃくちゃなストーリーにリアリティを感じる瞬間が生まれるのかな。
しかしネーミングセンス最高!
名無しさん
一気読みしてしまった。面白かった。
この年齢で読み返すと楽しみどころ変わるかな?読もうかな~
名無しさん
ヤムチャ、いきまーす。
名無しさん
なんだかんだで地球人類最強だからね
名無しさん
クリリンのことかあ!!で超サイヤ人になったのに、もっと前から付き合いがあったヤムチャはパンチ一発がこれがヤムチャの分。
人生なんてそんなもんだ。
名無しさん
ガンダムに出てきた量産型のGMに関して同じような論考があったはず。
二番煎じの誹りはぬぐえまい。 オリコンだし。


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ステルスタクシー
俺は「戦闘力たったの5」のゴミ位でいいよ。
ちゃんと仕事してそうだし。
名無しさん
当初はヤムチャがクリリンの役割を果たす予定だったんじゃないかな?
鳥山明が書いてる途中でクリリンが好きになって活躍するように書き換えたみたいなはなしきいたようなきがする。
ドラゴンボールで言えば俺もそうだけど大半の人がヤムチャでスラムダンクで言えば小暮君だと思うな。
名無しさん
いい記事だった。
名無しさん
へー!そんなに盛り上がってた存在なんだ。ヤムチャしやがってとか造語有ったのも知らなんだ(、、-`。´-)
自分の中では、見た目格好いいし、強かったのに、いつも強敵ばかりと戦う羽目になる…ウォーズマンが噛ませ犬の存在だったかなぁ。
名無しさん
ヤムチャって言う響きが好き
名無しさん
作者の鳥山明はヤムチャにどれだけ思い入れがあるのかが気になる。
***
純粋な地球人の中ではトップクラスの強さ
名無しさん
ヤムチャもかませだけど
ベジータもかませ
名無しさん
噛ませてすらいない定期
名無しさん
理想の凡人だからね。
悟空みたいなヒーローになりにくい現代の人には魅力的に映るだろうな。
名無しさん
地球人の中では五本の指に入る強者ヤムチャ周りの宇宙人、人造人間が強すぎるだけ
名無しさん
内容とは直接関係ないが、『ショッカー』とは敵組織の名前であり、サイバイマンのような取り巻きの奴等は『ショッカー戦闘員』である。筆者はその点を勘違いしていやしないか。
1Rの人
ジャンプ特有のパワーインフレで今までライバルだったのが味方になった途端弱くなる展開はあんまり好きじゃない。
旧キャラでも状況と場所によって獅子奮迅するシーンがあると心躍る。
そういう意味でバキはキャラクターが各人暴れ回ってるから意外性があって面白い。序盤でモブキャラにやられて解説役になってた本部が最近最強クラスの実力者になってたり、新キャラ登場の場合大抵旧キャラが噛ませになるけれど、その新キャラを旧キャラがぼこって、主人公が戦わないとか意外性が面白い。
名無しさん
結局ドラゴンボールが長期連載になってしまったからだね。
連載開始当時は悟空、ブルマ、ウーロン、ヤムチャ、プーアル、亀仙人、チチ、牛魔王、ピラフ一味とわいわい賑やかなちょいエロギャグ漫画でしたね。
^^
時期に、追い付けますよ^_^
名無しさん
ヤムチャが伸びなかったのは完全に性格。
あとはライバルとなるような目標がいなかったし、いつも悟空がなんとかするからと自身の成長を止めてしまっていた。
その点、天津飯はすごい。よくぞほぼ1人でここまで伸びた。
もしクリリンのパートナーが餃子だったら間違いなく天津飯が上。
@
ヤムチャに対する「愛」を感じる記事。日曜朝はDRAGONBALLがいいよ。
名無しさん
一般人よりは強いはずなのにドラゴンボールの世界だと弱く感じる。繰気弾は昔かっこいいと思った。もはや格闘家ではなく野球選手
名無しさん
立派なZ戦士でカッコいい
ma
なんだかんだいいヤツ。笑
名無しさん
この記事は面白い!個人的感情も入れ間接的な目線もある記事。
100点!
名無しさん
日本の漫画って主人公以外でも魅力的なキャラ多いよね!
そこが好き!
名無しさん
なんか特殊能力を与えたらいいんだ
透明人間になれるとか、、、
元、色男でも女アレルギーってことで色々オチもできるでしょ?
名無しさん
逆に言えば唯一無二の貴重なキャラと言える。むしろヤジロベーの方が戦闘回避する為冴えない。
名無しさん
デビュー当時はすごい強敵オーラ満載だったのにw
ついでにブウ編でチョコにされる前にも
セル編(人造人間編?)でも20号に瞬殺(瀕死)でしたね
瀬文千静
ヤムチャなくしてドラゴンボールはありえない
名無しさん
中二病から脱して、現実を自覚するまでの描写をリアルに表現した記事。

 


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